〜「小さく始める」理想の旅館経営・宿主への道〜
自分らしい空間でお客様をおもてなしする。そんな夢を持つ方へ。
華やかに見える宿の仕事ですが、裏側には地道な努力と緻密な計算が必要です。
ここでは、開業に必要なリアルな知識とノウハウを、丁寧に整理してご紹介します。
旅館とは?他の宿泊形態との違い
一言で「宿をやる」と言っても、法律や運営スタイルによって大きく3つに分類されます。
あなたが目指すのは、本格的なサービスを提供する「旅館」か、家庭的な「民宿」か、それとも空き部屋を活用する「民泊」か。それぞれの特徴を整理しましょう。
旅館【旅館業法】
- 特徴
「おもてなし」が商品。食事提供や布団敷きなど、フルサービスが基本。 - 設備
フロントの設置義務など、設備基準が比較的厳しい。 - 向いている人
本格的に宿泊業を生業とし、高単価なサービスを提供したい人。
民宿【旅館業法(簡易宿所など)】
- 特徴
家族経営が中心。布団はセルフなど、サービスは限定的でアットホーム。 - 設備
小規模な施設が多く、比較的開業しやすい要件の場合もある。 - 向いている人
自宅の一部などを活用し、親しみやすい価格で提供したい人。
民泊【住宅宿泊事業法など】
- 特徴
「暮らすような体験」。家主居住型と不在型がある。 - 制限
年間営業日数が180日以内に制限されるのが最大のネック。 - 向いている人
副業として空き部屋を活用したい人。本格的な事業には不向き。
本記事では、生計を立てることを前提とした「小規模旅館」の開業をメインに解説します。
宿主の1日と仕事内容
個人経営の宿では、オーナーは経営者であると同時に、現場を回すプレーヤーでもあります。「優雅にお客様をお出迎えする」というイメージが強いかもしれませんが、実際の業務時間の配分を見ると、まったく違った現実が見えてきます。
最も時間を奪う「清掃とメンテナンス」【35%】
意外に思われるかもしれませんが、 業務全体の約35%という最も大きな割合を占めるのが、清掃と施設のメンテナンスです。
客室のベッドメイキング、水回りの掃除、共用部の管理など、これらは「体力勝負」の仕事です。
しかし、ここのクオリティが少しでも下がると口コミ評価が劇的に下がるため、経営者として最も手を抜けない時間でもあります。
宿の顔となる「接客・フロント」【25%】
次いで25%を占めるのが、チェックイン・アウトや観光案内といった対人業務です。
ここが唯一、お客様と直接触れ合い、ファンを作ることができる「表舞台」の時間です。
清掃で体力を使い果たしていると、この重要な場面で最高の笑顔が出せなくなるため、ペース配分が重要になります。
食事提供【20%】と事務作業【20%】
残りの時間は、調理・配膳(20%)と事務作業(20%)に二分されます。
食事付きの宿にする場合、買い出しや仕込みの時間は必須です。
一方で、予約管理、メール対応、経理、備品発注といった「事務作業」は、お客様が寝静まった深夜や隙間時間に行うことが多く、これらがオーナーのプライベート時間を圧迫する主な要因となります。
開業までのロードマップ
思い立ってからオープンまで、最短でも半年〜1年はかかります。特に「物件取得」と「許可申請」は難関です。順を追って見ていきましょう。
STEP-1・・・コンセプト設計・事業計画
まずは「誰に」「どんな体験を」提供するかを明確にします。
- ターゲット層の選定(インバウンド?カップル?家族?)
- 競合リサーチと差別化ポイントの確立
- 資金計画書の作成(融資を受ける場合に必須)
STEP-2・・・物件探し・事前相談
最も重要なフェーズです。物件を契約する前に、必ず保健所と消防署へ相談に行きましょう。
- 用途地域(ホテル営業が可能か?)の確認
- 消防設備の設置要件確認(スプリンクラー等の有無)
- リフォーム費用の概算見積もり
ここを怠ると、契約後に「許可が下りず営業できない」という最悪の事態になります。
STEP-3・・・資金調達・改修工事
日本政策金融公庫などの融資を利用して資金を確保し、工事に着手します。
- 金融機関との融資面談・実行
- 内装・設備工事の着工
- ウェブサイト・予約システムの準備
STEP-4・・・許可申請・検査・オープン
工事完了後、行政の検査を受け、許可証の交付を待ちます。
- 旅館業許可申請(保健所)
- 消防法令適合通知書の取得
- プレオープンでのオペレーション確認
- グランドオープン
収支モデルケース
「満室なら儲かる」という皮算用は禁物です。ここでは、定員2名の客室が3室ある小規模旅館(1人1泊15,000円)を例に、具体的なお金の動きを見てみましょう。
パターンA:稼働率60%(現実的な目標ライン)
まずは、経営が軌道に乗った状態を想定します。月の半分以上が埋まる稼働率60%の場合、月間の売上は約162万円になります。
しかし、これがそのまま収入になるわけではありません。まず、家賃・水道光熱費・システム利用料といった「固定費」が毎月約50万円出ていきます。さらに、リネン代やアメニティ、食材費などの「変動費」が約32万円かかります。
結果として、手元に残る利益は約80万円となります。ここから税金を支払ったり、将来の修繕費を積み立てたりするため、決して余裕がありすぎる数字ではないことが分かります。
パターンB:稼働率30%(閑散期・立ち上げ期)
次に、予約が思うように入らない月を見てみましょう。稼働率が30%まで落ち込むと、売上は約81万円と半分になります。
ここで恐ろしいのが「固定費」です。お客様が少なくても家賃などの50万円は変わらずかかります。変動費(約16万円)を差し引くと、手残りはわずか15万円程度になってしまいます。
もし開業資金のローン返済が月10万円あったとしたら、生活費すら残りません。この「損益分岐点(赤字にならないギリギリのライン)」を把握し、閑散期をどう乗り切るかが、経営者の腕の見せ所なのです。
成功のための3つの心得
長く愛される宿を作るために、これだけは押さえておきたいポイントです。
🍵「体験」を売る🍵
ただ泊まる場所ではなく、その土地ならではの朝食、周辺の散歩コースの提案など、あなたの宿でしかできない「プラスアルファの体験」が付加価値になります。
📱デジタルの活用📱
予約管理システム(PMS)やサイトコントローラーの導入は必須です。事務作業を自動化し、生まれた時間を「お客様への接客」という人間にしかできない仕事に充てましょう。
🧹清潔感への執念🧹
口コミで最も低評価につながるのは「不潔さ」です。建物が古くても、ピカピカに磨かれていればそれは「味」になりますが、汚れはただの「不快」です。
夢の実現に向けて
旅館経営は決して楽な仕事ではありませんが、お客様の「ありがとう」を直接受け取れる、やりがいのある職業です。まずはしっかりとしたリサーチと計画から始めましょう。










